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【中小企業編】法人の余剰資金の資産運用

起業家バンク事務局

2022.10.02

近年、資産の有効活用できていない中小企業が増えています。内部留保が積み上がり、手元の資金が潤沢になることは強みですが、余剰資金が積み上がり資金効率が悪化するという事象が散見されます。

上場企業であれば株主からの厳しいチェックがありますが、外部からのチェック機能がない中小企業は、資金の効率性の悪さに気が付かないという側面があります。

今回は手元の余剰資金の資産運用について、それぞれの投資先の特徴や実際のポートフォリオをご紹介しながら、解説します。

法人の資金運用の必要性

法人の余剰資金は事業に再投資して盤石な経営をするのが基本です。さらなる事業拡大や設備投資に投資し、既存事業を強化することは、税務の観点からも最も有効性の高い資金の使い方といえるでしょう。

しかし、それでも余剰資金が残る場合、そのまま放置しておくのは資産効率の観点から正解とは言えません。社長が株式の100%を保有している中小企業の場合、事業で生み出した利益をどう活用するかを考えるのは社長の責務となります。

そこで考えて頂きたいのは法人格での資産運用です。

法人での資産運用というと、バブル期の財テクを彷彿させ、あまり良い印象を持っていない経営者の方も多くいらっしゃいます。しかし、余剰資金が放置されるケースが多い本業が好調なときほど資産の有効活用を考えるべきでしょう。中小企業の場合、業績が不安定になると資金調達に苦労するため、万が一に備え、法人として資産形成をしておくことが不況を乗り越えるのに有効な手段にもなりえます。

個人投資家との運用方法の違い

小企業の法人運用と個人投資家の大きな違いはリスク許容度にあります。個人の場合は投資額も小さく、ある程度リスクのある投資をしても問題ありませんが、法人の場合は、積極投資を行ったうえで、本来資金が回るべき従業員の人件費や事業に還元されなければ、経営は成り立ちません。したがって、中小企業の投資運用は「安定運用」が大原則となることを覚えておきましょう。 

具体的な余剰資産の投資先

法人の資産運用について代表的な投資先を、メリット・デメリットを挙げながらご紹介します。

最もポピュラーな債券

中小企業の投資運用は「安定運用」がメインですので、まず検討するのは「債券投資」です。

債券とは国や会社が資金調達のために投資家などからお金を借りる時に発行する証書のことです。債券はお金の貸し借りですので、発行体である国や企業には返済の義務があり、投資側としては、発行体が破綻しない限りは元本が保証されていることに加えて、一定の利息を受け取ることができます。

債券は比較的安全性の高い投資先として広く知られており、安全で定期預金よりも利回りが高いので、債券投資を行っている中小企業は多いです。さらに利息収入だけではなく、場合によってはキャピタルゲインを得ることが出来るのも大きな魅力です。

債券投資のリスクは発行体のデフォルトリスク(破綻)であり、発行体の信用リスクと利子のリターンが見合うかを判断していく必要があります。一般的には償還期間が長ければ長いほどリスクが高く、国債よりも社債のほうがリスクは高くなります。会社として債券投資をする際には償還期間を考慮して、長期の債券と短期の債券を組み合わせて投資をするのが賢明です。債券はキャピタルゲイン狙いで途中で売却すると損失になってしまうことがあるので、原則として、満期まで保有することが前提となります。

しかし、会社の経営状況が悪化した際に緊急資金がいつ必要になるかはわかりません。債券は運用商品の中でも流動性が低く、すぐにキャッシュに出来ない商品ですので、償還日の異なる債券を複数保有することによって、資金化できるタイミングを増やして、万が一に備えることが賢明です。例えば、10年満期の債券に集中投資するのではなく、1年・3年・5年・10年というように償還期間を分散させることです。

知らずに手を出すのは危険な仕組債

債券の中でも仕組債(しくみさい)は、社債や国債とは異なります。

仕組債とはオプションやスワップなどのデリバティブを組み入れた債券のことで、利子などが市場の動向によって変動します。債券にもたせるデリバティブの種類によって、EB債(エクスチェンジャブル・ボンド)になったり、デュアルカレンシー債になったり、リンク債になります。

仕組債の魅力はなんと言っても高い利回りです。定期預金が0.02%という時代にあっても利回り10%を実現するなど日銀のマイナス金利政策の影響を受けていません。同じような信用力、同じような期間の「通常の債券」と比較して、比較的高い利率を設定できます。高利回りということで債券投資と合わせて仕組債に関心を示されるオーナー社長が多いのは当然のことです。

しかし、債券=安全というイメージを持って、金融機関に勧められるがままに仕組債に手を出す経営者は少なくありませんが、仕組債の多くは「ゼロサムゲーム」です。したがって、得をする人がいれば、その分損をする人がいるので、債券とは特性が異なります。あらかじめ決められた条件(例えば、円高や円安など)を満たせば利益が上がる一方、条件を満たさないと損失を出す恐れがあるので、ハイリスクハイリターンで投機性が高いと言えます。

仕組債の中でも最も代表的なEB債は他社株転換可能債券と言われ、仕組みとしては株価水準によっては満期前に債券から株式に転換されることがあります。具体的には株価が上がると「早期償還」、株価が横ばいだと「高利回り債券」、株価が下がると「損失」となります。

転換社債と仕組みは似ているのですが、投資家の意思に関係なく自動で株に転換されるのが大きな相違点です。利回りは高いのですが、株価が低迷している時に株に転換されると損失を出す恐れがあります。さらに、通常の債券の持つデフォルトリスクに加えて、仕組みを入れ込んでいるので通常の債券よりも流動性が低く、流動性が低いがために価格も低いので、満期まで保有することが前提となってしまいます。

債券は一般的には投資商品なかでリスクの低い資産なので安心と思われがちですが、上記のようなリスクが十分にあります。そのため欧米では個人向けの販売が禁止されているほどです。営業マンからは「日銀のマイナス金利政策で超低金利環境にありますが、こちらの債券なら高利回りが期待出来ますよ」と言われても、慎重に検討しましょう。

昔の事例ですが、2012年に兵庫県の朝来市が為替連動型の仕組債で12億円を超える多額の評価損を出し、訴訟に発展したケースもあります。投資の原則は「理解できないものには手を出さない」ことです。あえて仕組債に手を出さずとも、法人の運用先として魅力的な投資先は多くあります。

安定した収益を確保できる不動産

キャピタルゲインより「インカムゲイン(家賃収入)」狙いで不動産に関心を示される経営者の方も少なくありません。収益不動産を活用することで、収益面では比較的安定した収益が期待できるほか、資産の保全性も高く、投資先としてはポピュラーです。例えば、直近では利益が上がっているものの今後の売上の見通しが分からない場合に固定費を賄う手段として、収益不動産の購入が考えられます。これによって中長期的に本業以外の安定した収益源を確保することが出来ます。

不動産投資を企業の経営に活用することを、CRE戦略(Corporate Real Estate)と呼び、経営戦略との整合性を考慮して、中長期的に不動産投資効率を向上させることは企業のコーポレートガバナンス上も重要です。中小企業においては収益の安定性のほかに、節税対策、事業承継対策というメリットがあるうえ、オーナー社長個人として見た場合にも自分や家族の将来のための安定した収益源というメリットがあります。

実際に不動産を購入する場合は、収益の目標額やそれを実現するために必要な物件の価格などを逆算し、合計の投資額を計算します。さらに自己資金に加えて、いくらの借入があれば物件取得費を工面できるのかを計算することも必要です。

具体的に、固定費を賄うために収益不動産の購入を検討しているならば、まず固定費を計算し、諸経費や税金、ローンの返済額を差し引いて、固定費の金額分の利益を生み出すような物件を選ぶといいでしょう。売上の見通しが不透明で安定した収益源を確保するのが目的ならば、売上が減った場合のシミュレーションを行い、それを補うためにどれくらいの家賃収入が必要なのかを計算します。購入後は、不動産の入居者の募集や入居・退去手続き、清掃・管理などを代行する管理会社に依頼するのが良いでしょう。

しかし、不動産は売却に際して手数料や時間がかかり、流動性が高くない資産であるため、会社の経営が傾いてもすぐに換金できない点に注意が必要です。また、空室率が高いために予想以上の収入が得られないことも十分にありえます。その場合は本業の収入源を補うために投資しているのにもかかわらず、本業から不動産借入金の返済を行うという事態になりかねません。

最近は法人向け融資の際に資金使途が不動産だと「本業と関係ない」ということで融資を断られるケースがあるほか、融資を受けられても金利が高く、返済期間が短い傾向にあるので、不動産投資のハードルは高いというのが現実です。

運用がイメージしやすい有価証券

資産運用と聞いて、一番最初にイメージするのが株式投資かもしれません。株式の売買によるキャピタルゲインや配当金のリターンで資産を増やすことが期待できます。また、株式の他にも投資信託という選択もあり、組入比率によってはリスクを抑えることも出来ます。

しかし、一方で有価証券、特に株式は価格の変動が大きいので金融市場の景況によっては資産価値が大きく減ってしまいますので、銀行から見た時の資産評価では、大幅に低い資産価値で見積もりをされてしまいます。

さらに投資信託のなかにはファンドラップといって売買から運用までをすべて証券会社に代行してもらう投資一任型の商品もありますが、こちらだと手数料がかなり高くなってしまいます。「投資なら株式で運用したい。しかし、経営で忙しくて投資する時間がない」という経営者に人気ですが、最終的なリターンは小さくなってしまいます。

中小企業の運用ポートフォリオ

投資の目的別にポートフォリオのサンプルをご紹介します。こちらでご紹介するのはあくまでも例なので、会社の規模、利益率、業種、目的によって実際のポートフォリオは異なることにご留意下さい。
重要なことは自社としての投資の基本方針を定めることです。たとえば、「為替リスクを避けたい」、「分散投資を徹底したい」、「大きなリターンを狙いたい」などです。リスクについては自分にとって避けたいリスクを特定し明確にすることが大切です。

積極型

・安定運用型のヘッジファンド 50%
・米国不動産(米ドル建て資産) 30%
・現預金 20%

海外資産を3割とすることで、ある程度のリターンを狙えます。米国不動産を外国株式や外国REITにすることも良いでしょう。ちなみにヘッジファンドとは市場平均のリターンを上回っていても、マイナスは受けたくないという投資家のニーズに応える形で、上げ相場でも下げ相場でも利益追求をしていく投資信託です。

安定型

・安定運用型ヘッジファンド 25%
・米ドル運用 25%
・国内不動産 20%
・日本国債 15%
・現預金 15%

米ドル運用をすることで為替リスクを少しだけ取った上で、不動産や国債などの安定資産に集中投資します。為替リスクを全く取りたくない場合には、国内債券の比率を50%程にして、国内株式や国内REITの比率を高めてもいいかもしれません。

インフレヘッジ型

・安定運用型ヘッジファンド 20%
・米ドル運用 40%
・株式投資 10%
・国内不動産 20%
・現預金 10%

米ドルや株式に投資することでインフレヘッジをします。米ドル運用先としてはリスクを取る場合には米国株式、慎重に行きたい場合には米国債券に投資します。米ドル40%で為替リスクを心配する場合には株式投資の割合を増やすことも考えられます。

ノルウェー政府年金基金のポートフォリオを参考に

ノルウェー政府年金基金は運用資産110兆円という世界第二位の機関投資家であり、1998年からの運用成績は267%と好成績を出しています。ITバブル崩壊時であってもわずか7%しか資産を減少させていません。また、リーマンショックでは23%の損失を出しましたが、2009年には25%のリターンを出し、損失を取り戻すという驚異的な成績を挙げています。ノルウェー政府の運用手法は法人運用のポートフォリオを考える際、参考に出来ます。

・株式 60~80%
・非上場不動産 7%以下
・債券 20~40%(内新興国は5%以下)
・再生可能エネルギー 2%以下

こちらを見ると株式と債券という伝統的資産で構成されていることが分かります。さらに債券の投資先を見ると、基本的に新興国へは投資をしないということが分かります。これは新興国債券は高利回りではありますが、為替で力負けすることを考慮した上での戦略です。

株式と債券という資産の組み合わせによって、株式の値動きの大きさを債券の安定性で補うという効果を持たせています。実際にノルウェー政府の出している運用報告書を見てみると、株式は変動が大きくITバブル崩壊時やリーマンショックで大きく下落していますが、結果的には債券よりも良好なパフォーマンスを記録する一方、債券はマイナスになることがなく、株式より派手な動きはしていないもののきれいに資産を右肩上がりに上昇させています。ノルウェー政府年金基金は債券を組み入れることによって、ポートフォリオ全体の価格変動率を抑えた運用をしていることが分かります。

参考:ノルウェー政府年金基金「年次報告書」
https://www.nbim.no/en/publications/reports/2019/annual-report-2019/

まとめ

今回は法人運用について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。手元資金の有効活用手段として、法人であっても運用手段は柔軟に考えたいところです。一方で、運用にやりすぎは禁物です。運用はあくまで余剰資金で行うものであって、本業より優先して行うものではありません。バブル期の中小企業のように、財テクに熱を上げすぎないようにしましょう。

また、資産に占める投資性の資産の割合が高すぎると、「この会社は本業をおろそかにしているのではないか」と金融機関から敬遠されてしまいます。運用の目的を明確にしてうえで、適正な運用手段と金額を決定しましょう。

 

今回はここまで。
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