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中小企業が実行すべき人材不足を解決する4つ対策

起業家バンク事務局

2022.08.05

創業メンバーの役割

2020年3月時点の大卒大学院卒の求人倍率は1.83倍となっていますが、300人未満の中小企業に限定すれば求人倍率は8.62倍となっています。また、2016年に財務省が実施した調査によると、全国で人材不足を感じている企業は全体の63.2%となっており、規模別に見ると、大企業56.6%、中堅企業66.3%に対し、中小企業は74.7%と、およそ4社中3社が人材不足を感じています。これらの調査から、中小企業の人材不足の深刻さがうかがえます。

人材不足により、一人当たりの業務量が増大し、残業が増えるなど職場環境の悪化につながり、それが離職者の増大、その結果として一人当たりの業務量が更に増大と、負のスパイラルに陥っている中小企業は多く存在します。この記事では、人材不足を少しでも解決できるよう、中小企業でもできる具体的な対策をご紹介します。

人材不足の背景

中小企業における人材不足の背景には、近年の景気拡大に加えて、人口減少という構造的要因が大きく影響しています。日本の人口は明治時代から上昇し、2000年頃まで上昇の一途をたどっていましたが、2000年以降は一転して減少に転じ、現在は1億2,000万人の人口となり、2030年に1億1,500万人、2050年に1億人を下回ると予想されています。

それに伴って、生産年齢人口(15~64歳)の人口も減少傾向で、1995年の8,700万人をピークとして、2015年には7,700万人まで減少しています。今後、生産年齢人口は加速度的に減少すると言われており、特に44歳以下の働き盛りの人材の占める割合は急激に減少していきます。

このような構造的な問題は、企業から見ると人材不足という障害ですが、労働者の立場から見ると「売り手市場」であり、転職を検討する余地が生まれてしまいます。バブル期のような好景気による人材不足に比べ、このような構造的な問題が背景にあることから、中小企業の人材不足は待ちの姿勢で解決することは難しいと言えます。

中小企業の人材不足を解決する対策

人口減少という構造的問題によって求人倍率が上がっているため、中小企業においても具体的な対策を講じる必要があります。それでは具体的に、どのような対策を行えばいいのでしょうか。ここから中小企業でもできる対策について解説します。

対策1 人事制度の改定

人事制度は会社で働く労働者のモチベーションに関連する重要なファクターです。したがって、人事制度の改定によって得られる効果も絶大なものがあります。ここでは4つの具体例をもとに、人事制度の改定について解説したいと思います。

勤怠管理

中小企業では残業に対する意識の低さが問題になることがよくあります。勤怠管理を徹底し、長時間労働を是正することで生産性の向上につながるだけではなく、人材の定着にも貢献します。

休暇制度

休暇制度の充実も中小企業の課題です。有給休暇については労働基準法の改正により、年間で10日以上の有給休暇取得が義務付けられましたが、実質的に導入していない中小企業も珍しくありません。休暇の取れない職場環境は求職者から魅力のある職場には見えず、採用難にも直結します。

給与体系

賃金の上昇も重要な要素となります。大企業と同等の賃金水準は難しいものの、優秀な人材にはそれ相応の対価を支払うのが当然です。たとえ、やりがいがあっても賃金が低ければ労働者はさらに賃金の高い職場を求めて離職します。給与体系を改定することで労働者の労働意欲を増大させ、離職率の低下のみならず、生産性も向上させることができます。給与のアップは会社の経営を悪化させると考える経営者の方も多いですが、離職や採用にかかる費用を削減し、生産性が向上すれば、給与アップ以上のリターンを得ることは可能です。

人事評価制度

人事評価制度の見直しも有効です。社員が会社に対して抱く不満として多く挙げられるのが「正しく評価されていない」という人事評価に対するものです。中小企業では人事評価制度自体が存在しなかったり、形骸化しているケースがあるので、成果報酬を加えるなど労働者にとってのインセンティブが必要となります。

これらの人事制度の改定は、労働時間の削減や会社の経費の増大につながるため、さらなる人材不足を招くと思われがちですが、決してそのようなことはなく、生産性の向上や人材の定着率の向上によりリターンの方が大きくなる傾向にあるので有効な対策と言えるでしょう。

対策2 IT活用による省人化

中小企業に限らず、日本の企業は労働生産性が低いという指摘をされることがしばしばあります。実際にOECD加盟国37カ国のうち、2019年時点で日本の労働生産性は21位という調査結果があります。

この労働生産性の低さの背景として挙げられるのが、IT化の遅れです。IT化は業務効率性を高め、結果として省人化にもつながります。人材不足の中で少ない人数で業務を回すためにもITの積極活用は推進したいところです。これまで人が行ってきたアナログ業務は属人化しやすいですが、ITを活用することによって、業務がシステムで回るので、業務の引き継ぎなども容易になり、人材リソースの適切な再配分が可能となります。確かに初期費用はかかりますが、長期的に見ればIT推進はぜひはじめたい対策の一つです。

とはいっても、どこから始めていいのか分からないという中小企業も多いと思われます。その場合には会計・給与・勤怠・人事などのバックオフィス業務や販売管理・顧客管理などをまずはIT化しましょう。これらの業務は定型的な業務の割合が高く、IT化のハードルも低いです。

例えば、これまで紙やエクセルに打ち込んで行っていた交通費の経費精算をIT化すれば、経路を入力するだけで掛かった交通費が自動で計算され、仕分作業や振込データも自動化できます。このようにして浮いたマンパワーを人でないと行えないようなクリエイティブな領域に投下することによって業務の効率性は飛躍的に上がります。

対策3 多様な人材の採用強化

労働者というと男性社員に目が行く経営者も多いですが、多様な人材を採用することで人材不足を解決している中小企業はたくさんあります。ここでは、主に外国人・女性・シニア層の活用について確認したいと思います。

外国人

厚生労働省が公表している「外国人雇用状況」の届出状況によれば、2017年の外国人雇用者数は約128万人となり、2007年に届出が義務となって以来、過去最高を記録するなど日本で働く外国人労働者は毎年増加しています。

2019年には「特定技能制度」が創設され、新たに14業種における外国人労働者の就労が可能となり、介護・建設・飲食・宿泊・農業など人材不足が深刻な業界において採用の選択肢が拡大しました。特定技能制度を利用して、在留資格を得るためには、業務遂行に十分な日本語力が条件となっているので、中小企業にとっては、日本語に支障がない優秀な人材の確保が可能となります。さらにある程度の業務を遂行できる即戦力があることも在留資格取得要件の一つなので、海外から優秀な人材を確保できて、人材不足の解消に繋がります。

日本人とは異なる価値観を持っていることから、社内の多様性(ダイバーシティ)にも貢献し、様々なアイデアや意見が生まれ、他の社員への刺激となります。近年ではグローバル化やインバウンド需要の増大によって、外国人を相手とするサービスの担い手として、また、海外業務拡大を視野に入れている場合には、現地とのやり取りをサポートしてくれる橋渡しとしての役割が期待されています。

一方、日本人社員と比べると日本語力に劣る部分は当然あるので、メンターを配属して日本語の教育を行うための環境整備は必要となります。また、日本人社員に外国文化や宗教的な配慮など、外国人を受け入れるための研修も必要になるでしょう。特に中小企業の場合は人材不足によって教育に時間を割くことが難しいこともあるので、外国人が働きやすい職場作りは課題の一つです。また、言語の違いから雇用契約を締結する際に誤解が生じやすいので、社内規定の翻訳なども行った方が安心です。

女性

1985年に男女雇用機会均等法が成立してから35年が経過し、今や女性が働くのが当たり前の時代になってきました。中小企業にとっても女性の活用は人材不足を補うために有効な手段です。女性人材の活用を推進するためには女性にとって働きやすい環境の整備が重要です。

では、女性にとって働きやすい会社とはどのような会社でしょうか。具体的に4つの例を挙げて解説したいと思います。

①柔軟な勤務体系

女性特有の問題として体調の浮き沈みが激しいことが挙げられます。また、育児を始めると保育園の送迎などで時間が制限されてしまい、結果的に業務成果に支障が出たり、やりがいを感じにくくなるケースがあります。体調が悪いときや育児期間中は在宅勤務を認める、フレックスタイムなどを導入して勤務時間をフレキシブルに対応するなど柔軟な対策が大切です。女性に柔軟な勤務体系を認めることで、働きやすさが増し、女性の就職率や定着率が向上すると考えられています。

②ライフイベントへの配慮

女性には男性に比べて、出産・育児などのライフイベントが多いです。「仕事に復帰したら、休職中に自分の席や仕事がなくなってしまった…」という話も実際にあります。出産や育児で休暇を取った後に復職がしやすい環境作りが大切になるでしょう。また、出産・育児を補助するような制度の整備も必要です。産前産後休業や育児休業等は労働基準法で制定されていますので、認めるのはもちろんですが、妊娠中の女性の通勤時間をずらしたり、適度な休憩を取らせるなどの配慮も必要です。また、近年では不妊治療を受ける女性も増えています。不妊治療を受けている女性の通院のために休暇を取得することを認めたり、通院や体調等に配慮して、当日でも休暇を取得できる制度を整えている中小企業も少なく有りません。

③育児・介護との両立ができる

女性特有の問題ではありませんが、育児や介護に関して時短勤務の制度を取り入れることも検討できます。例えば、育児や介護など個々の事情に対応して、一日の勤務時間を短くしたり、法定の育児休業を超えて、育児休暇を取れるような制度を整えることが考えられます。また、社内に保育士を配属した託児所を設け、仕事の合間に授乳をしたり、様子を確認できる体制を整えている企業もあります。このような制度があれば、女性社員が育児や介護などと両立しながら働くことができ、また、育児や介護が終わった後に完全復職することがしやすくなります。

④女性の積極登用

会社における女性の割合が低いと女性が働きづらい職場という印象を与えてしまいます。逆に女性の社員が多い場合には、社内に女性のロールモデルになる存在がおり、女性社員特有の悩みや不安を共有できるので定着率も上がります。また、近年では女性活躍推進法に代表されるように女性管理職の比率を上げることも課題となっています。会社は経営層や管理職の判断に基づいて動くので、上位層に女性がいれば様々な視点で判断を行うことができ、女性にとって働きやすい職場環境作りにも貢献します。

シニア世代

シニア世代の採用強化も人材不足解消の有効な対策です。「働きたい」という思いを持っていても、体力的な問題から、無理が出来ない事情もあります。そうした事情を理解し、労働形態を柔軟にすることが重要です。

これまで定年を期に引退していた人の雇用を継続できれば、新たな採用や人材の育成に時間を割かなくて済みます。シニア層の指導による若手の育成も期待できるでしょう。政府もこうしたシニア層の働き方改革に前向きな姿勢で、シニア層の雇用環境の改善に取り組めば100万円程度の助成金が支給される制度、シニア層の賃金を補填するために「高齢者雇用継続基本給付金」「高齢再就職給付金」といった様々な後押しも用意されています。

シニア層の特徴としては、仕事以外の趣味の時間を大事にしていたり、体力的な問題から若い頃と同じように働けないという問題があります。したがって、短時間勤務を認めたり、パートタイムのシフト制を導入して、午前のみ、午後のみの勤務体系を認めることが有効です。シニア層は体力的な問題があるので、過労を防止するために残業や休日出勤の免除なども積極的に検討しましょう。

対策4 業務のアウトソーシング

人員を増やしたり、派遣社員の受入れに抵抗がある場合には、人材不足の解消を社外に求めるという方法があります。フリーランスや個人事業主の方を有効活用するため、クラウドソーシングのサービスも増えており、環境は整備されつつあります。現在では給与計算や経理などのバックオフィス業務のみならず、営業・マーケティングなどの幅広い業務の外部委託が可能となっています。

一方、社外の人に仕事を依頼する場合には、仕事の内容について指示書を書いたり、詳細について説明する必要があるなど、効率性の観点から難題もあります。

企業の実態に合わせ、少しずつ人材不足を解消しましょう

ここまで中小企業の人材不足解決のための具体的な対策についてご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。今後、生産年齢人口の減少によって、中小企業の人材不足は改善するどころか加速度的に悪化することが予想されます。しかし、上記のように中小企業でも実行できる対策はたくさんあります。

生産年齢人口が減っていく社会において中小企業が人材不足を解消するためには、それぞれの企業の実態に合わせ、できる対策から始めてみましょう。また、人材は採用して終わりではなく、働きやすく、やりがいのある職場環境を目指して、働きやすい環境を工夫することが必要です。これらの対策は具体的な成果が出るまでに時間がかかるので、できるだけ早期に始めることが重要です。

 

今回はここまで。
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