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中小企業の事業承継|よくある4つの課題と解決策

起業家バンク事務局

2021.12.03

中小企業のなかには創業から何世代にもわたって事業を継続している企業がたくさんあります。これらの経営者は大切な会社を守り、顧客や取引先との信用を築き上げることで多くの成功を収めてきました。事業承継とは、そうした経営者の大切な会社を永続的に発展させ、次世代の経営者にノウハウやブランド、技術など会社が持つ資産を承継する作業です

そのためには時間をかけて様々な問題点を検討し、経営者がしっかりと向き合う必要があります。この記事では、事業承継についてよくある課題について挙げ、それぞれに対する解決策を示します。

事業承継は早めの対策が必要

中小企業は日本企業の99.7%以上を占めており、地域の経済や雇用、ひいては日本経済を支えています。しかし、日本政策金融公庫の調査によれば、2020年時点で中小企業の3分の2にあたる企業が後継者不足に悩まされており、60歳以上の経営者のうち半分以上が将来的に廃業を予定しています。

このように事業承継対策を実施できないまま事業を廃業してしまう経営者が多く、地域経済にとって深刻な損失となっています。事業承継対策は一朝一夕で完了するものではないため、早い段階から課題を整理し、それに対する解決策を打つことが大事です

まずは、事業承継対策を始める経営者が直面する課題について整理しましょう。

事業承継のよくある課題1 後継者不足

課題の内容

60代といえば事業の後継者について考える時期です。しかし、60代になっても2~3割の企業で後継者が決まっていません。独立行政法人中小企業基盤機構が平成23年3月に実施した「事業承継実態調査報告書」によれば、中小企業経営者が考える事業承継先は多い順位に以下のとおりです。

・家族や親族…40.2%
・役員や従業員…14.3%
・第三者(M&A等)…2.6%
・廃業を検討…7.8%
・未定…28.8%
・その他…6.3%

また、日本政策金融公庫総合研究所が2010年3月に実施した「中小企業の事業承継」によれば、中小企業の後継者の決定状況は以下のとおりです。

・60歳~64歳…決定47.5%、未定31.6%、廃業予定15.3%
・65歳~69歳…決定58.6%、未定25.6%、廃業予定12.9%
・70歳以上…決定69.4%、未定20.3%、廃業予定8.6%

このように3割弱の企業で後継者が決定おらず、70歳以上の経営者でも2割の企業で後継者が未定となっています。後継者未定で承継の準備をしないまま突然相続が発生して、事業に直接関わりのない親族に自社株が分散してしまう可能性があります。

仮に自社株が分散するとどうなるのでしょうか?

株主の権利は自社株の議決権割合によって定められていますが、議決権の1/3超を保有する株主が生じる場合は、特別決議といった会社の重要な決定事項に対する拒否権が発生してしまいます。したがって、議決権の2/3以上を保有することで、株主総会で会社の重要事項の可決が可能になると同時に拒否権の発動を阻止できます。

課題の解決策

事業承継を検討する際は、まず会社を誰に引き継ぐのかを検討します。後継者となる候補が決まったら、その方が引き継ぐ意志があるのかどうかを確認します。後継者を検討する際は、下記を参考に後継者候補別の特徴や留意点を慎重に検討しましょう

親族に承継する場合

主な特徴として、次の3点が挙げられます。
 ・社内外から心情的に受け入れやすい
 ・事業用資産だけではなく経営そのものを承継することで、所有と経営の分離を回避できる
 ・早期に決定することで準備期間を長く確保できる

主な留意点として、次の2点が挙げられます。
 ・経営の資質と意欲を併せ持つ候補がいない可能性がある
 ・相続人が複数いる場合、後継者の決定や経営権の集中が難しい場合がある

従業員に承継する場合

主な特徴として、次の3点が挙げられます。
 ・社内から広く候補者を検討することができる
 ・長時間勤務する役職員に承継する場合、経営の一体性を保持できる
 ・現経営者が株式の売却資金を得ることができる

留意点として、次の2点が挙げられます。
 ・自社株を取得する資金を調達する必要がある
 ・個人債務保証の引き継ぎが困難な場合がある

第三者に承継する場合(M&A)

主な特徴として、次の3点が挙げられます。
 ・親族や社内に適任者がいない場合も広く外部から候補者を検討できる
 ・譲渡先とのシナジーにより事業を成長させられる可能性がある
 ・株式の売却や公開により資金を得ることができる

主な留意点として、次の3点が挙げられます。
 ・条件に合う相手が見つからない場合がある
 ・社内で反発があるなどガバナンスの継続が困難な場合がある
 ・経営の一体化に時間が掛かる

事業承継のよくある課題2 親族内の承継に不安がある

課題の内容

中小企業庁が2013年に公表した「中小企業白書」によれば、「親族」に事業を引き継ぐ際の問題の有無について72.7%の経営者が「問題になりそうなことがある」と回答しています。さらに「問題」の具体的な内容については以下のような回答となりました。

・経営者としての資質・能力の不足…60.7%
・相続税・贈与税の負担…41.2%
・経営における公私混同…23.7%
・役員・従業員の士気低下…14.5%
・本人から承諾が得られない…13.0%
・親族間での争い…11.0%

たとえば、後継者の長男が社長に就任するも経営ノウハウがなく安定的な事業継続が困難に陥る事例は多数あります。

課題の解決策

経営者の親族が後継者にならない場合、経営方針や業務内容を把握している役員や従業員が承継することで事業の継続が容易になります。社内の役職員へ承継する場合、自社株を買い取る資金を準備する必要がありますが、個人で多額の資金を準備することは困難なので、特別目的会社(SPC)という手法を用いて、事業と自社株を承継する方法が好まれます。後継者となる役職員がSPCを設立し、事業会社を子会社とし、現経営者はSPCに対して自社株を譲渡します。

自社株を現経営者の親族が承継する一方で、経営権は役職員や従業員が承継することで会社の「経営」と「所有」を分離する方法もあります。しかし、この場合は、株主となる親族と、新しい経営者の間で経営上の意見の相違が生じた場合、経営が不安定にある可能性があります。

事業承継のよくある課題3 親族外の承継に不安がある

課題の内容

中小企業庁が2013年に公表した「中小企業白書」によれば、「親族以外」に事業を引き継ぐ際の問題の有無について63.3%が「問題になりそうなことがある」と回答しています。さらに具体的な問題の内容については以下のとおりでした。

・借入金の個人保証の引継…40.5%
・後継者による自社株の買取…40.0%
・後継者による事業資産の買取…26.4%
・金融機関との関係維持…16.0%
・計画的な後継者の育成…16.0%
・役員・従業員の士気低下…13.3%
・株主からの理解…10.9%
・役員・従業員からの理解…10.7%
・後継者候補の承諾が得られない…10.4%
・取引先との関係維持…8.3%

実際にあった事例として後継者に専務を指名したものの「自社株を買い取る資金が調達できない」として辞退されたケースがあります。

課題の解決策

親族以外の役員などを後継者にする場合、自社株の買取や個人保証の引き継ぎが難しく、承継が困難となるケースがあります。この場合、M&Aによって事業の継続を実現できた例もあります。

M&Aの代表的な手法が、現経営者が保有する株式を第三者の会社へ売却する株式譲渡です。株式を売却した会社の子会社となることで事業の継続と従業員の雇用継続が可能となります。

事業承継のよくある課題4 後継者の育成

課題の内容

多くの経営者は後継者の育成にかかる期間についてどのように見ているのでしょうか?

日本政策金融公庫総合研究所が2010年3月に発表した「中小企業の事業承継」によれば、5年以上と回答した経営者が60%以上に上っています。また、経営者に事業承継のタイミングについて質問したところ、平均で38.5歳の経営者は「もっと遅い時期のほうがよかった」と回答しているのに対して、43.7歳の経営者は「ちょうどよい時期だった」、50.4歳の経営者は「もっと早い時期のほうがよかった」と回答しています。

したがって、43.7歳が平均してベストな承継のタイミングとなりますが、実際には後継者の事業承継時の現経営者の平均年齢は50.9歳であり、7歳以上のギャップがあります。つまり、後継者の育成が7年間後ろ倒しになっているのが現状です。

課題の解決策

後継者の育成には、単に後継者となる人物の教育だけではなく、その周囲の幹部の引き継ぎも含めると承継の準備から完了までに5~10年かかる場合もあります。できるだけ早期に後継者本人の意志を確認し、育成・承継の時間を十分に確保することが大切です。特にブランド・信用力・全体の統括・対外折衝などが現経営者に依存している場合は、その分だけ育成に必要な期間も長くなります。したがって、育成期間を踏まえて早めの承継準備への着手が必要です。

たとえば、後継者育成の対策例としては以下のようなステップが考えられます。

①対処すべき課題を抽出し、優先順位付けを踏まえて事業承継のプランを策定
②後継者と後継者を支える幹部社員の教育・研修を実施
③「経営理念・戦略」を構築し、社内全体への浸透を図る

後継者育成の具体的な計画策定やアドバイスについては顧問税理士や外部コンサルタントなどの専門家に相談することをおすすめします。最近では銀行や証券などの金融機関も事業承継部門を設置していますので、メインバンクに相談してもいいかもしれません。

まとめ

事業承継対策は一朝一夕で完了するものではありません。この記事でご紹介した事業承継の課題と解決策は今後の経営戦略を考える上で重要なものです。これから事業承継に取り組む経営者の方はもちろん、当分の間は御自分で経営を継続される経営者の方にも役に立つ内容となっておりますので、ぜひ参考にしてください。

今回はここまで。
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この記事を書いた人

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