起業家に伝えたい大切なこと

創業融資において自己資金として認められる範囲

起業家バンク事務局

2021.08.22

起業するとき、金融機関で創業融資を受けたいと希望する人は多いのではないでしょうか。創業融資として人気があるのは日本政策金融公庫が行っている新創業融資制度です。しかし、日本政策金融公庫の新創業融資制度をはじめ、創業融資のほとんどに、自己資金に関する条件が付いています。

自己資金に関する条件とは、たとえば、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できない方は融資できません、といったものです。自己資金とは、その名のとおり、自己の所有する資金のことですが、創業融資における自己資金は、手元にない現金預金であっても、自己資金として認められることもあります。一方で、手元にある現金預金であっても、自己資金として認められないケースもあるのです。

では、この自己資金、いったいどの範囲まで自己資金として認められるのでしょうか?
この記事では、日本政策金融公庫が行っている新創業融資制度の自己資金を基準に、自己資金の範囲について解説していきます。

自己資金の定義

日本政策金融公庫の新創業融資制度における自己資金は、明確に定義されていません。そのため、自己資金に該当するか否かについては、基本的に審査員や決裁者の判断によります。

創業融資における自己資金は、一般的に考えられる自己資金とは意味合いが異なり、手元にない現金預金であっても自己資金として認められることもあれば、手元にある現金預金であっても自己資金として認められない、ということもあります。

その観点で自己資金を定義すると、「他の人に返済しなくてもいい資金」と言うことができるでしょう。たとえば、毎月の給料から少しずつ積み立てた100万円は、他の人に返済しなくてもいいので、当然に自己資金となります。一方、カードローンで100万円を借りた場合は、いつかは返済しないといけない資金になるので、たとえ通帳に100万円あったとしても、それは自己資金として認められません。当たり前のことを言っているように聞こえるかもしれませんが、返済義務があるか否かを判断基準とすれば判断しやすいでしょう。

確実に自己資金として認められるもの

自己資金として認められる典型的なものは「通帳などで客観的に確認できる資金で、その出どころが確認できるもの」です。以下の①~⑤については、確実に自己資金として認められます。

①預貯金通帳でコツコツ貯めた資金

融資審査では、必ず個人の預貯金通帳を提出するように求められます。それも、融資審査からさかのぼって6カ月分ぐらいの記帳済の通帳を持参するように指示されます。記帳できていない期間があれば、銀行で明細書を発行するよう求められます。

通帳に存在する資金がコツコツと貯めた資金であれば何も問題ありません。堅実性や計画性を高く評価され、融資を受けられる確度は一段と高まるでしょう。自己資金の中でもコツコツ貯めた資金は、最も高く評価されます。

②有価証券の売却によって得た資金

株式や投資信託などを売却して通帳に振り込まれた資金も、当然自己資金として認められます。預貯金として貯めたのか、有価証券として持っていたのかの違いしかないので、預貯金と同様、高い評価を得ることができます。

③親族からの資金援助(返済義務のないもの)

自分ひとりで十分な創業資金を準備できる人は限られています。そのため、両親や兄弟から資金援助を受けるケースは、さほど珍しくありません。この親族から援助された資金について返済義務がない場合は、自己資金として認められます。このとき、親族からの資金援助であることが明確に分かるように、現金で貰うのではなく、親族の名前が通帳にハッキリ印字されるように振込みをしてもらいましょう。

金融機関は税務署ではないので、贈与契約書については基本的に深く関知しませんが、お金の流れを整理するためにも贈与契約書を締結していた方が安心です。

④出資者からの出資金(資本金)

例えば、自分以外の株主から出資を受けて、株式会社を設立した場合、その時の出資金(資本金)は、そのまま自己資金としてみなされます。実質支配者の問題など別の問題が生じる可能性はありますが、出資に関しては返済義務はないため、問題なく自己資金として認められます。

⑤すでに入金された退職金

脱サラして起業する場合など、退職金を元手に起業するケースは珍しくありません。このとき、会社を辞めて受け取った退職金は自己資金として認められます。退職金額が示された書類を提出し、振り込まれた金額が退職金であることを明確にしておきましょう。

自己資金として認めるか否か、判断が分かれるもの

以下の⑥~⑧は自己資金として認められる可能性は高いですが、場合によっては自己資金として認められないこともあるので注意が必要です。⑨~⑩は、基本的に自己資金として認められませんが、補足資料を提出することで、自己資金として認められることもあります。 

⑥まだ入金されていない退職金

脱サラで起業する場合、退職前に色々と準備を進める方が多いでしょう。このとき、有給休暇の消化などで退職前に創業融資の申込をする場合、当然、退職する前なので退職金が入金されていません。また、会社を退職した直後の場合は、退職金を受け取るまでに少なからずタイムラグが生じるため、実際に退職金の入金を確認することができません。

このような場合、基本的には、退職金の予定額が示された書類を提出すれば自己資金として認められます。しかし、退職金は一時金ではなく年金としても受け取ることができるため、退職金の予定額の提示のみをもって自己資金と認めるかは、審査員の判断が分かれるところです。

⑦既に開業資金として支出してしまった資金

すでに事業を開始して店舗や事務所の敷金(保証金)などを支払った場合、支払った金額が分かる領収書があれば、その金額を自己資金として判断してもらえる場合もあります。しかし、領収書があったとしても、それが本当に事業用のものとして使ったかどうか判断できない場合は、自己資金として認められることはできないでしょう。

⑧家族名義の預貯金

配偶者である妻(夫)名義の預貯金については、一般的に自己資金として認められますが、あくまでも別人格であるため、審査員の判断によります。妻(夫)名義の預貯金を自分名義に移すことができない場合、妻(夫)に同席してもらい、創業時に使うことに同意していること伝えてもらえれば、自己資金として認められるでしょう。なお、未成年の子供名義の通帳であれば、とくに同意を得ることなく、自己資金として認められるでしょう。

⑨知人・友人からの支援金

起業に当たって資金援助を受けるケースは、さほど珍しくありません。この資金援助が「③親族からの支援金(贈与金)」だった場合は自己資金として認められるのですが、この資金援助が親族ではなく、知人・友人であった場合はどうなるのでしょうか。

この場合、知人・友人が支援金として無償贈与することは考えにくいため、通常は自己資金として認められることは難しいでしょう。しかし、知人・友人が支援金として無償贈与することに合理的な理由がある場合は、自己資金として認められる可能性があります。

⑩貸したお金を返済してもらったときの資金

知人・友人に資金を貸していて、それを一括で返済してもらったときの資金、いわゆる貸付金は自己資金として認められるでしょうか。このケースでは、会計上は自己資金になりますが、融資審査においては自己資金として認められないことが多いでしょう。貸付金額にもよりますが、通常、個人間で高額な金銭の貸借はしないと考えられるため、後で解説する「見せ金」と判断されることになります。ただし、知人・友人との間で交わした金銭貸借契約書などを提出することで、自己資金として認められるケースもあります。 

自己資金として認められないもの

⑪返済義務のある資金

自己資金の定義は「他の人に返済しなくてもいい資金」と言うことができるので、返済義務のある資金は当然、自己資金として認められません。これは、両親や兄弟からの資金援助でも同じです。両親や兄弟から「事業が上手くいったら返してくれればいいよ」といって受け取った資金は、いつかは返済しなければならないので、自己資金として認められません。

両親や兄弟から資金援助を受ける場合、返済義務があるかどうかは、しっかりチェックされます。本当に返済義務のない資金援助(贈与)の場合は、曖昧な回答をせず、ハッキリ「返済義務はありません」と伝えるようにしましょう。

⑫出どころが不明な資金(タンス預金、現金など)

タンス預金とは、自分の手元に現金として保管しているお金です。タンス預金に限らず、資金の出どころがハッキリしない資金は自己資金と認められません。融資審査では、、融資審査の時からさかのぼって6カ月分ぐらいの記帳済の預貯金通帳を持参するように指示されます。このとき、一度に多額な資金が振り込まれていないかチェックされます。

このとき、手元に保管していた現金を預け入れたといっても、その現金の出どころが不明確なため、自己資金として認められません。自己資金として認めてもらうためには、第三者から客観的に確認できるよう、預貯金の通帳で貯めるようにしましょう。

見せ金は通用しない

融資審査では、融資審査の時からさかのぼって6カ月分ぐらいの預貯金の通帳を持参するように指示されます。記帳できていない期間があれば、銀行で明細書を発行するよう求められます。このとき、まとまったお金が一度に通帳に振り込まれていれば、必ずそのお金の出どころについて詳しく聞かれます。その、まとまったお金の出どころについて、自己資金であると裏づけを示すことができなければ、見せ金であると判断されるでしょう。

また、融資審査の時は、勤務時代の収入(源泉徴収票など)を確認されますが、その収入と自己資金の額を比較して不自然に多い場合、過去1年以上前にさかのぼって通帳を確認することもあります。不自然な入金によって、見せ金であることが判明すると著しく信用を損ない、セカンドチャンスを失ってしまうこともあり得ます。

本当に自分のお金であっても、見せ金と誤解される場合があります。例えば、別の通帳から資金移動をしたときや、有価証券や資産を売却したときなどは、指示がなくても、自己資金であることの疎明資料を持参しましょう。自己資金の多寡は、審査のときに非常に重視されるため、自己資金であることの証明は、自ら積極的に行いましょう

自己資金が非常に重視される理由

日本政策金融公庫の創業融資はもちろんのこと、民間の金融機関の創業融資においても、自己資金をいくら準備しているかは非常に重視されます。では、創業融資において、自己資金が非常に重視されるのは何故でしょうか?

理由を一言で説明するのは難しいですが、この理由は「自己資本比率」が関係しています。株式投資の経験がある人にとっては、馴染みのある指標かもしれませんね。
自己資本比率とは、会社の安全性を見るための最も基本的な指標で、返済不要の資本を会社にどのぐらいあるかを図る分析指標です。自己資本比率は、高ければ高いほど財務的には安定しているといわれており、30%以上あれば、ひとまず安定していると言われています。

つまり、創業資金の総額の30%以下であれば、自己資本比率が30%を下回ることになり、事業の安全性が危うくなるということになります。つまり、自己資金が少ないほど、資金ショートするリスクが高いと判断されます。また、審査担当者は、自己資金が少ないと、事業の本気度や計画性がないと判断しますので、融資は更に難しくなります。

自己資金が多いほど、借入額が増える

先に説明した通り、 自己資金は多いほど自己資本比率が上昇するため、事業は安定することになります。そのため、自己資金が多いほど有利で、借入額が増えることになります。融資を受けられる金額は自己資金に比例しているといっても間違いではありません。

創業計画書の内容をしっかりと作成することで、自己資金が不足していても創業融資に成功された事業者はたくさんおられますが、自己資金が多いほうが、審査は有利であることは間違いありません。

自己資金が足りない場合はどうすればよいか?

自己資金が足りない場合は、以下の2つの方法しか選択肢はありません。どちらも選択できない場合は、いったん起業を見合わせることを検討しましょう。

①自己資金と認められるお金を増やす

まずは、両親や兄弟などの親族に事業計画を説明し、納得してもらったうえで支援金を出してもらえないか頼んでみましょう。親族に頼ることができない場合、知人や投資家を頼り、出資を募りましょう。これから起業する事業内容が魅力的で成長が期待できるものであれば、「出資してもいいよ」という人は意外と多いものです。

②創業計画を縮小する(初期投資額を減らす)

現実的には、こちらを選択する人が多いといえるでしょう。縮小するといっても、小手先の計画変更ではありませn。店舗の出店場所を変更する、機械や車両の購入を諦めリースにする、といった大掛かりなものです。それでも足りない場合は、やはり創業を見直す内装を諦める、

自己資金がない場合、創業融資が受けられるのか?

仮に自己資金がない場合、創業融資は受けられないのでしょうか?

自己資金がないという程度問題にもなりますが、仮に自己資金がゼロの状態だった場合は、日本政策金融公庫や他の金融機関の創業融資を受けるのは、まず無理でしょう。自己資金が非常に重視される理由で示した通り、自己資金がゼロの状態では本気度も伝わりません。まずは、何とか自己資金を準備してから、再度、融資を申込するのがいいでしょう。

まとめ

この記事では、日本政策金融公庫が行っている新創業融資制度の自己資金を基準に、自己資金の範囲について解説しました。自己資金がゼロだと創業融資は難しくなることは確かですが、自己資金がゼロではないけど少しなら準備できるならば、創業融資を受けられる可能性はあります。

事業計画書を見直し、売上予測を詳細に作る、取引先がしっかりしていて継続的な取引が期待できる、事業に役立つ資格を取得しているなど、熱意をもって説明することで、融資につながる可能性も十分あります。決して諦める必要はありません。

今回はここまで。
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この記事を書いた人

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