起業家に伝えたい大切なこと

新型コロナウイルスによる休業は保険で補償されるのか?

束岡 忠彦

2020.06.12

こんにちは。大阪で法人向け保険コンサルタントをしております束岡と申します。
先日飲食店の経営者様から今度のコロナ禍に関係する相談がありましたので、ご紹介させていただければと思います。

「従業員が新型コロナウィルスで陽性反応がでてしまい行政に報告したところ店を2週間しめないといけなくなった。この場合、保険で補償してくれるのでしょうか?」

私は以下のようにお応えしました

「飲食店で一般的に加入している賠償責任保険とは別に休業補償の保険に加入していれば補償の対象になるかもしれませんね。ただし、その休業補償の保険が食中毒での休業以外に感染症による休業も補償していればですが・・・」

ご相談いただいた経営者さまは、いわゆる食中毒事故などがおきた際に、賠償金などを支払う「生産物賠償責任保険(PL保険)」には加入されていたのですが、休業した際の収益減少を補償する保険には加入していなかったので、残念ながら損害保険からは保険金をお支払いすることはできませんでした。

「せっかく保険に入っているのにこんな時につかえないなんて・・・」

保険に携わっているものとして一番つらい瞬間です。
保険に加入されているお客様が困っているときにお役にたてない。これほどつらい時はありません。では、どうすればお役に立つことができたのか解説させて頂きます。

保険が補償できるもの

その1.賠償

いわゆる対人・対物への賠償です。飲食店でしたら、飲食物を提供する際にスタッフが誤って食事をお客様にこぼしてしまいお客様の衣服を汚してしまった。また、店内でお客様が転倒してケガをしてしまったと同時にスマホを割ってしまった。このようなことが起きれば、店側は知らないとは言えません。

従って提供する食べ物をこぼしてしまったのなら店側はその衣服のクリーニング代を弁償しないといけませんし、お客様が転倒してケガをし、その際にスマホを割ってしまったのなら、治療費とスマホの修理代を弁償しないといけません。

このような業務中におきた事故の弁償(賠償)をする保険が「施設賠償責任保険」といわれる保険です。

次に、お客様からお店が提供した食事が原因で、食中毒になったと申し出があれば如何でしょうか。勿論、提供した食事が原因であったことを確認することが第一条件になりますが、
お店が提供した食事が原因であるならば、お店側は食中毒になってしまった方の治療費や慰謝料、またお客様が仕事をお休みになられたのであれば休業損害等を支払う義務があります。

このように商品を提供した後におきた事故の弁償(賠償)をする保険が「生産物賠償責任保険」、通称PL保険と呼ばれるものです。

その2.減少した収益

では、食中毒や感染症が発生したことを原因として、店舗を休業しないといけなくなった時は如何でしょう。

休業期間中の売上がゼロであったとしてもテナント料や人件費といった固定費はかかってしまいます。売上がゼロでも経費だけが掛かってしまうわけですから店舗を休業した場合の損害は大きなものとなるでしょう。

こういった事故がなければ本来得られるはずであった収益を補償する保険が「食中毒特定感染症利益補償保険」とよばれるものになります。
一般的には生産物賠償責任保険(PL保険)に特約として追加し、売上日額のおおよそ4~7割程度を1から3か月の期間を限度に補償します。

保険金額設定の目安は以下のように設定いたします。
経常費+営業利益/売上高 = 保険上の利益率
日額売上高×保険上の利益率=補償日額×補償期間(1~3か月)です。

新型コロナウイルスの影響による休業は保険の補償されるのか?

話を戻しますと、お客様のご要望はこうでした。

「従業員が新型コロナウィルスに感染したために都道府県の要請により店舗を2週間閉鎖した。本来得られるはずであった売上を補償してほしい」 

この要望を満たすことができるのは、上記に記載している「食中毒特定感染症利益補償特約」になります。しかし、この特定感染症という文言には注意が必要です。感染症というものは厚生労働省によると以下の通り定義されています。

一般感染症 : エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、ペスト など
二類感染症 : SARS、MERS、結核、鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9) など
三類感染症 : コレラ、細菌性赤痢、腸チフス など
四類感染症 : E型肝炎、A型肝炎、黄熱、狂犬病、マラリア など
五類感染症 : インフルエンザ、麻しん、百日咳、破傷風 など
指定感染症 : 新型コロナウイルスによる感染症(2020年2月7日施行) など
新型インフルエンザ等感染症 : 新型インフルエンザ、再興型インフルエンザ など
新感染症 : 現在は該当なし

記載の通り、新型コロナウィルスは指定感染症に該当します。
多くの保険会社において特定感染症として保険の対象となる感染症は、一類・二類・三類までとされており、新型感染症は補償の対象外とされています。しかしながら保険会社によっては指定感染症についても補償の対象としている商品もあります。

よって、このお客様の要望を満たすには、この指定感染症を補償する商品に加入する必要があるでしょう。

まとめ

飲食業の方が保険に加入するさいのチェックポイント
① 賠償のリスクはカバーしているか?
業務中・・・施設賠償責任
業務完了後・・・・生産物賠償責任(PL)
② 食中毒が原因で店舗を休業した際に減少した収益はカバーしているか。
③ 特定感染症を原因とする休業もカバーする補償内容となっているか。

私が損害保険業界に携わって以来、多くの食中毒事故に関わってまいりました。
支払いができた案件もあれば、残念ながら満足な支払いができなかった事案もございます。勿論、細菌性やウィルス性の食中毒が発生し店舗を休業せねばいけなくなった企業様も多くみて参りました。多くの場合この食中毒特定感染症利益補償の加入がなく、収益の減少を補償できないことが多々ございました。

食中毒などで店舗を休業することはあってはならないことです。未然に防ぐことが最も大事であること承知の上ですが、事故がおきた際に役に立つものも保険です。現金に色はありません。決算書上保険金を受け取った場合は雑収入となり、現金が増加します。

この補償があれば万が一の際企業家の皆様を救うセーフティネットになるかもしれません。
飲食店経営を考えておられる起業家様につきましては保険加入の際は賠償だけでなく、食中毒特定感染症利益補償の加入も検討してください。

この記事を書いた人

束岡 忠彦

AFP認定者
関西学院大学商学部卒業後、国内損保会社に勤務。
主に大手・中堅企業を担当し、企業の海外進出時のリスクマネジメント体制の構築、業務におけるガバナンス体制の強化。事故時の顧客対応まで、企業のリスクマネジメント全般に深くかかわる。
保険会社として利益相反する顧客対応に限界を感じ、顧客の立場に立った活動を求め、法人のリスクマネジメント経験が豊富な独立系代理店へ転身。
顧客目線での問題解決を得意とし、士業や異業種と連携した顧客の問題解決経験も豊富。

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