貸衣装業「はれのひ」事業停止の原因を考察

週刊女性

貸衣装業「はれのひ」に関するコメントが、週刊女性さまに掲載されました。紙幅の関係で残念ながら掲載されませんでしたが、もっとも伝えたかった「事業停止・業績悪化」の原因分析をここで紹介します。未来の起業家が、起業や経営を学ぶためのケーススタディとして活用して欲しいと考えました。

 

最盛期には関東を中心に6店舗を展開(現在は4店舗)し、急激に事業を拡大した貸衣装業「はれのひ」。多くの被害者を巻き込んだ突然の事業停止は会社設立6年目で起こった。

 

起業後の経営戦略に落とし穴はあったのだろうか?
限られた資料と独自の取材をもとに、業績悪化と事業停止の原因を分析する。

 

なお、この「起業家バンク」webサイトに掲載している記事は、
起業家・起業後5年以内の経営者に向けて発信しており、当記事も起業・経営の視点からのみ記述している。

 

貸衣装業の起業モデル

貸衣装業「はれのひ」の起業モデルは、商圏が限られる地域密着型の起業(いわゆるスモールビジネス)に該当する。

地域密着型の起業モデルにおいては、多店舗展開で事業を拡大する戦略は決して間違いではない。むしろ王道ともいえる戦略といってよい。

 

業績悪化・事業停止の原因を考察

王道ともいえる戦略をとったにも関わらず、なぜ当該の社は事業停止に至ったのだろうか?

私見として「大きな戦略(方向性)は間違いではないが、打ち手(方法論)を誤った」という印象を持っている。

ここで指摘する打ち手のミスは以下の3点である。

 

1.事業の急拡大

すべての起業モデルで「急拡大」がダメなわけではない。

しかし地域密着型の起業においては、事業を急拡大するとリスクが高まる。その理由は「事業が拡大するスピードに組織体制が追い付かないから」である。

そして組織体制を整えられない理由は、簡潔に言えば「ヒト」と「カネ」に対して目が届かなくなるから(=管理できなくなるから)である。

 

「ヒト」について

事業規模が大きくなると経営者一人で全体を見渡すことができなくなる。そのため、自分の分身となる「ヒト」がどうしても必要になる。

しかし、ヒトを育てるのは非常に難しく時間もかかる
事業を急拡大して次々とヒトが増えれば、もともとの経営資源が少ない中小企業では、まともな人材育成など不可能に近い。

 

「カネ」について

多店舗を経営するときは、店舗ごとの採算を把握する。つまり会社全体と各店舗ごとに「カネ」を計算しなければならなくなる。したがって、店舗間取引や間接費の負担割合などいくつか基準を決めて管理会計を整える必要がある。

しかし、中小企業にとって管理会計の負担は軽くない。さらに管理会計を担える人材の育成も簡単ではない。

 

以上、事業の拡大スピードが速いと、組織体制が整わないまま走ることになる。それでは正常な事業運営はできず収益をあげることはできない

 

2.資金計画が大ざっぱ

資金計画の手抜かり感は否めない。

ここでいう資金計画とは、具体的に「資金繰り」「資金の配分」「資金調達力」の3点である。この3点は密接に関係していることだが、問題を整理するために3つに分けて解説する。

 

「資金繰り」について

非常に長文となるので、こちらの記事を参考にして欲しい。

 

関連記事:
起業は資金繰りとの闘い!資金不足になる前に軌道にのる秘訣

 

「資金の配分」について

当該の社は、2011年3月に資本金150万円で設立されている。TSRによると2016年9月期の時点で金融負債が約4億円ある。つまり金融機関から借入をして次々に出店を行い、事業を拡大していたと考えてほぼ間違いはない。

大きな事業を動かすには、相応の大きなエンジン(体制)が必要である。そして大きなエンジンを動かすには相応のガソリン(資金)がいる。これは誰しもイメージができることだと思う。

資金力が十分ではない中小企業は、このエンジンとガソリンの資金配分に細心の注意を払わなければならない。野心ある起業家は、とかくエンジンだけに目が向きがちである。エンジンを大きくするなら、ガソリンの算段も同時にしておかなければならない。

当該の社は、金融機関から調達した資金の大部分をエンジン(≒出店費用)に投入していたと考えられる。資金配分のバランスが悪いと、ガス欠を起こして動かなくなるのも必然といえる。

 

「資金調達力」について

売上が急増したからと言って、金融機関の与信枠が急増するわけではない。

金融機関の融資審査は、会社の売上増加が「瞬間風速」なのか「安定したトレンド」なのかを必ず見極める。その判断ができない場合は「静観」となり融資は見送られる。また、金融機関は一つの会社に対して融資できる与信枠に限界もある。

借入依存の体質であることから、当該の社は資金繰りが苦しくなれば金融機関から調達できるだろうといった「自社の資金調達力についての過大評価」があったように思える。

 

関連記事:
融資枠があるのに銀行が融資を断る3つの理由【事例付き】

 

 

3.立地の選定

打ち手ミスの最後の指摘は「立地」である。

当該の社の場合、最後に残っていた店舗は、横浜、八王子、つくば、福岡の4店舗であった。多店舗展開の最大のメリットはスケールメリットであるが、この遠方バラバラの4店舗でスケールメリットが生まれたのか非常に疑問である。

経営の視点以外の理由(出身地だった等)に影響されたのかもしれないが、立地の選定に意図は見えない

 

 

当該の社の場合、商圏が重ならない程度に店舗を近隣に集約して出店すれば、今回のような事態にならなかったかもしれない。
店舗同士が近いと、共同購買による価格交渉ができる、経営陣の目が届く、熟練社員を新店舗に派遣して人材育成が図れる、在庫の融通を利かせやすい、近隣店舗に顧客を誘導できる、などの利点がある。

これらの利点を生かせるうえ、ローカライズする負担を軽減できることを考えれば、一つの地域に店舗を集約化させた方が経営判断として正しかったかもしれない。

 

 

打ち手を誤った原因を考察

ここからは、打ち手(方法論)を誤った原因を社長の経営判断の視点から考察する。

当該の社長の経歴

当該の社長は会社設立前に経営コンサルタントとして活動している。
金融機関から数億円もの資金を調達できているので、少なくとも一定の事業能力と実績を備えていたと考えられる。

 

では、ノウハウ・実績のある(と考えられる)社長が、打ち手を誤った理由はどこにあるのだろうか?

起業家が陥りやすい「錯覚」

起業家が陥りやすい「錯覚」がある。

財務体力の弱い中小企業の社長がこの錯覚に陥ると致命的なミスにつながりやすい。なぜならこの錯覚は、失敗をした後でなければ錯覚していたことに気付かないからである。

 

一連の打ち手ミスも、社長がこの錯覚に陥っていた可能性が考えられる。

錯覚の正体

錯覚の正体は「会社の経営者としての能力が、個人の事業能力の延長線上にあると誤認すること」である。

 

これを「会社員」と比較して解説すると分かりやすい。

いくら優秀な営業マンでも、営業課長、営業部長と役職が上がれば「役割」が変わっていく。管理職になれば、自らの営業能力よりも部下に営業させて成果を出すことを求められる。役職が上がるにつれて、見える景色が広がっていくイメージだ。

 

しかし、起業家は最初から「社長」なので地位が変わることはない。来月から営業課長とポジションが変われば気構えも変わるかもしれないが、社長業は日々連続した業務の中で仕事をしている。事業が拡大し、本質的には営業マンと営業部長ぐらいの環境差が生じているにも関わらず、見える景色があまり変わらないため、営業マン感覚でズルズルと会社を経営してしまう。

 

会社の全体設計を描くスキルと、実際の現場レベルで成果を出すスキルは別物である。
店が1店舗だけなら個人能力で対応できても、複数店舗を経営するとなるとマクロの視点が欠かせない。

錯覚に陥りやすい起業家の特徴

ベンチャー企業のようにチームで事業を推進するタイプならば、この錯覚は起こりにくい。

圧倒的に多いのは、一人で起業する「一人起業家」のケースである。イケイケどんどんで拡大志向の社長は特にこの錯覚にハマりやすい。専門家から定期的に経営アドバイスを受けるなど、自分(会社)を棚卸しする機会を意識的に設けた方がよい。

 

まとめ

地域密着型の起業の場合、事業を急拡大させて経営破綻に向かう企業は多い。多いというより典型的パターンと言った方が適しているかもしれない。

そうは言っても、ほとんどの事業者は「売上を拡大したい」という強い欲求に駆られている。では、リスクを最小限に売上を伸ばすためにはどうすればいいのだろうか?

 

今回のケースで考えれば、貸衣装業「はれのひ」が事業停止を回避するために何をすればよかったのだろうか?

 

ヒントをRPGゲーム「ドラゴンクエスト」にならって提供する。

多店舗展開は、いわば売上のジャンプアップなので、レベルの低い勇者がボスキャラの城にいきなり訪れるようなものだ。しかも装備(体制)は不十分で、HP(資金体力)も低い。

では、レベルの低い勇者がボスキャラの城で生き抜くためには、どうすればいいのだろうか?

 

 

 

今日はここまでにします。

最後の課題の正解はたくさんあると思います。また別の記事で明らかにしましょう。

 

 

この記事を書いた人

maezono

前薗 浩也

中小企業診断士、1級ファイナンシャルプランナー技能士、MBA。

日本政策金融公庫で起業家・中小企業向けの融資審査に16年間従事。この間の支援実績は7,000社を大きく超える。
審査員時代、起業して数年で経営破綻していく事業者たちを目の当たりにする。審査員でありながら起業家・中小企業を上手く経営支援できない自分に思い悩み大学院へ進学。そこで「起業の成功要因」を研究し論文を執筆する。
独自に積み上げた知見に基づき、自らも起業。現在は全国の起業家・中小企業を対象に「新事業の立ち上げ・売上の定着化」に特化した支援活動を行う。

2017年、一人で起業する「一人起業家」を専門にサポートする起業家バンクを設立する。

 

 

 

この「起業家バンク」のwebサイトに掲載している記事は、
すべて前薗浩也が執筆または監修しています。

主に起業家・起業後5年以内の経営者に役立つ情報を発信しています。

 

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